第9回|ダバオ市で会社経営・ダバオ情報サイトを運営する長谷川さんにインタビュー
フィリピンで暮らす日本人の皆さんに「フィリピンへ移住したきっかけ」や「現地での仕事、ビジネス・生活事情」などをインタビューし、フィリピン移住の魅力や生活する上での厳しさ、メリット、デメリットなど、移住者の皆様にご協力いただきリアルな実体験をお届けする大好評の「移住者に聞くフィリピン海外生活」。
コロナ禍で自由に行き来することは難しい状況ですが、現在もフィリピンで生活する日本人はたくさんいらっしゃいます。リタイアされた方・フィリピンで会社やお店を経営されている方・投資家・日系企業で働いている方やIT関係のお仕事・フィリピンを拠点にリモートで働くフリーランスの方、現地の方と結婚をされフィリピンで暮らしている方など様々です。
またフィリピンへ移住するきっかけも皆さん様々。非常事態宣言が継続される中、フィリピンで新しい事業を立ち上げられる方や移住を検討されている方も少なくありません。住めば都、そして一度訪れるとその魅力にはまってしまう不思議なフィリピンですが、
今回で第8回目を迎え、前回インタビューさせていただいた「ハウスオブジョイの澤村さん」より移住の輪のバトンを繋いでいただき
フィリピンのミンダナオ島(ダバオ市)で会社経営・ダバオ情報メディア「DAVAWATCH」を運営する「長谷川 大輔さん」にインタビューさせていただきました。
ダバオ市はフィリピンで2番目に大きなミンダナオ島の中心都市。フィリピンの最高峰、標高 2,954 m のアポ山近くに位置し、商業の中心地として発展したダバオ市でバイリンガル人材事業や企業支援・コンサルティング事業を展開する「Creative Connections & Commons Inc.」とIT開発及びダバオ情報サイトを運営するPistacia, Incを経営されている長谷川さんに「フィリピン移住」について色々お話しいただきました。
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学生NGO団体での貴重な体験と出会いが、フィリピン移住のきっかけに
直接のきっかけは当時勤めていたNGOで現地駐在員のポストが空いたことでダバオにアサインされました。元々フィリピンで働きたいと思ってNGOに入ったので機会を与えて下さった方々には今でもとても感謝しています。
なぜフィリピンで働きたいと思っていたかと言えば、学生時代に様々な大学の学生が集まって国際協力を行う学生NGO団体に所属していて、その経験が大きかったです。高校生まで全く海外に興味のない人間でしたが、沢木耕太郎さんの「深夜特急」に出会ってから海外にとても興味を抱くようになり、頻繁に渡航するようになりました。学生NGO団体も国際協力に興味があったわけではなく、渡航をいかにに安く、いかに長く、いかに面白そうな経験ができるかという視点で入りましたが、当時の所属メンバーも含めて魅力的な人間が沢山いたので活動にのめりこんでいきました。
フィリピン人のホスピタリティに感動!大学を卒業したらフィリピンで働くことを決意
私の時はフィリピン・レイテ島の山間部で水道インフラを設置するというプロジェクトだったんですが、現地のニッパハウスとかバンブーハウスのような家庭に数週間からひと月くらいホームステイさせて頂きながらプロジェクトを進めていました。近くの川で洗濯、風呂等、料理用の水汲みなども含めて生活も一緒にするということは、とても新鮮で貴重な体験でした。
そういうこともあって、当時大学を卒業したらフィリピンで働くことを決意し、せっかくだから地元の人の直接役に立つ活動をしたいとNGOの門を叩いたわけです。そのNGOに所属させて頂くのも面白いエピソードがあるのですが、長くなりそうなのでここでは割愛します。ただ何か特別なスキルや経験があったわけではなく、情熱と行動力だけで雇っていただきましたので起業した今でも弊社に入社希望の方にはまず会ってみる、話してみるという面接を重視しています。
ダバオで雇用を作りたい!という思いなど、意気投合しビジネスパートナーと共に起業
当時は、NGOの現地駐在員として様々な活動に従事していました。教育分野、特に日比関係を重視していましたので、所属していたNGOが現地にミンダナオ国際大学という大学を設立し、そこで日本語も重点的に教えていました。しかしながら、せっかく日本語を学びたいと大学に通っても卒業したら地元に日本語を使う仕事がなかったのです。卒業したら、マニラかセブ、あるいは日本に行くしかないというのが現状で優秀な人材がどんどんダバオから流出して行きました。ですので当時のボスから小規模ビジネスを立ち上げてダバオで雇用をつくれと指示を受けていました。
そういう事情もあったので、NGO時代にフードコートや旅行社等の小規模ビジネスの立ち上げに関わったりしていましたが、ちょうどその時期に大学の方に日本語人材を大量に必要とする仕事があり、紹介して欲しいという話がマニラのコンサルタントの方からありました。当時、一緒に会社を立ち上げたビジネスパートナーの三宅は同大学の日本語教師だったのですが、共にプロジェクトを立ち上げたり、進めたりする機会が多く、意気投合してましたし、ダバオに雇用をつくるという課題も共有していました。そこに日本語人材の相談が来たので、これは学生を紹介するのではなく、自分たちで会社をつくろうと二人で決め、起業することになりました。
その決断をコンサルタントの方に伝えると、起業に必要な登記などの手続きは全部うちでやっておくからプロジェクトに専念して頑張ってと背中を押していただき、クライアント側からプロジェクト開始のためにダバオに出張で来ていた日本人の方も、一緒に頑張りましょうと二人三脚でプロジェクトを進めて頂きました。これは本当にタイミングと人に恵まれていたなと思います。起業して10年となる今でもお付き合いがありますし、お仕事も一緒にさせて頂いていますのでありがたいです。
現在ダバオで複数の会社を経営
一つは、マンガやゲーム、アニメの翻訳を行う事業
こちらはお客様がフィリピン国外の日本・中国・韓国・ヨーロッパ・アメリカなので、コロナの影響を受けず継続することができています。
また「アルメニア」という国にも会社作り、ヨーロッパ言語(フランス語・イタリア語・ドイツ語・スペイン語・ポルトガル語)と(ロシア語)をカバーしています。ダバオの事務所は、日本語、英語だけではなく、韓国語や中国語などアジアの言語をカバーし、全部で「35か国語」は翻訳できる体制を整えています。
もう一つフィリピン国内で事業を行う会社「ピスタシア」
こちらはIT開発及び情報ポータルサイト「ダバオッチ」を運営。みんなセブやマニラにしか行かないないので、ダバオというところをもっと知ってもらいたいという思いがきっかけで立ち上げました。ダバオのメジャーなニュースなど、毎日更新中。
会社のポリシーとして、一緒に成長していきたい。
取引先の規模がどうのこうのではなく、相手と合うかどうか?一緒に解決策を話し合ったりすることもあります。コストだけの話だとすぐに契約が終わったりすることもあります。波長が合うとか、この会社と一緒に何かしたいと思えるか?そのような取引をしていると長く案件が続きます。
担当者が悪いわけではないが、上からの指示で「決まっちゃったことなのですみません。」とか言われるとちょっと残念に思います。
なので取引先は僕らみたいな会社と取引して頂けるような面白い、波長の合う会社さんが多いですね。
よくダバオ魅力を伝えるときに、働くならマニラ、旅行するならセブ、住むならダバオというお話をさせて頂いています。
ダバオの魅力はマニラやセブに比べるとまだ田舎で人々ものんびりとしています。人口も150万人程度で渋滞もマニラやセブに比べて少ないです。
現在、日系企業・商工会登録の正会員は20社弱で、日本人在住者は総領事館に登録されている人がミンダナオで2000人位・ダバオは800人程度と日本人はまだまだ少ないです。
「ダバオの情報はダバオッチ(Davawatch)」という情報ポータルサイトを運営してまして、毎日更新していますので一度サイトに訪れて頂きたいですが、ドゥテルテ大統領のお膝元ということで市の条例などは日本より厳しいものが多いです。
ドゥテルテ大統領の影響で市の条例、例えば公共の場所での喫煙を禁止する条令、飲食店での酒類販売は深夜24時までとする条令、平日日中は住宅街でカラオケを禁止する条令など、犯罪発生率やタクシーのぼったくりもフィリピンの他の都市より低く、余計なストレスが掛からず比較的安全に過ごせるのは良いところです。
さらにミンダナオ島の中心都市ですので優秀な人材が多く集まり、マニラやセブと比べても物価が安いという点は魅力的だと思います。
ただ、日本と同じような生活を求める場合、マニラやセブから食材などが配達されてきますのでマニラやセブより高く、また日本食料理屋などは母体数が少ないので競争原理が働かず、味、値段、コスパも含めてマニラやセブの方が優位性が高いのではないでしょうか。
また、ミンダナオ島の中心都市ですので優秀な人材が多く集まり、マニラやセブと比べても物価が安いという点は魅力的だと思います。さらに地政学的な観点からいうと、台風が滅多に通過しないので毎年何かしらの台風被害を受けるフィリピンですが、災害リスクが低いのがダバオの特徴だと思います。逆にフィリピンで生活する上での厳しさ
フィリピンだけではなく、他の東南アジア諸国や発展途上の国等も、一般的に言えるかもしれないことですが、インフラ整備が未発達、ルールや規律が洗練化されていない、行政が機能していない、何をするにもとにかく時間がかかることが多いのでその辺りは時間に正確で規範や規律を守ろうとする日本人の方のストレスになる部分かと思います。
ただ逆に言えば先進国のように規制でガチガチということではないので、何か新しいこと、特にIT系の分野でビジネスを始める分にはチャンスだと思います。
あとは語学能力も大切ですが、人付き合いやコミュニケーションが人と円滑に取れない(少なくとも取ろうとしない)、フィリピンの方をリスペクト出来ないような方はフィリピンでの生活は難しいと思います。あくまでも私たちは外国人ですし、住まわせて頂いているという謙虚さを忘れないように私自身も心掛けています。
これからフィリピンで事業を始めたい方へのアドバイス
先ほども少しお話しましたが、まだまだ様々な事が発展途上ですので、色々なことに挑戦できると思います。
私たちは日本の漫画やアニメ、ゲームなどを中心とした翻訳やカスタマーサポート、アプリ開発等を行うIT系の業種ですが、例えばオンラインショッピングなんかは、今コロナ禍ということもあってフィリピンで大流行しています。そもそも郵便局で荷物がロストする(盗難にあう)なんてことが普通だった一昔前までフィリピンでオンラインショッピングができ、しかも荷物の追跡ができるなんて想像もできませんでしたし、配車やフードデリバリーのサービスも今ではメジャーなものになりました。
フィリピン人スタッフを信頼し任せていく事が重要
フィリピンで会社をつくり、経営するという場合に、私たちが心掛けてきたことは、フィリピン人のスタッフを信頼して任せていくということです。任せていくというのは役職、人事権や予算権も含みます。このお話をすると「よく任せられるね」というお言葉を頂きますが、彼らに自分たちの会社だと思ってもらうことを期待しています。何のために私たちが起業したといえば、元々教育系ということもありますが、ダバオに雇用をつくるため、海外や他の都市に行っても家族のいるダバオに戻ってきたいと思ったときの雇用の受け皿になるため、そしてダバオ、地域で活躍できるリーダーを育成していくためです。そのため、最初はトップダウン型でどんどん引っ張っていくことも必要ですが、入社して数年後には役員や代表取締役に就いてもらうことを目指していますし、現に今は起業した時にアルバイトとして採用した学生が、弊社の代表取締役に就任しています。
さらに言えば、起業する際に企業理念やビジョン、ミッションなどはとても重視して作りました。実際に共感できる企業や面白いなと思った会社の代表の方などに話を聞きに伺ったこともあります。当時はこういう姿でありたいとか、理念をつくり、理想を追い求めることに夢中でしたが、10年経った今になるとその重要さを再認識してます。
今後需要のある事業・日本人がこれから進出できそうなビジネスは?
先にもお話させて頂きましたが弊社で運営しているダバオの情報ポータルサイト「ダバオッチ」に少し古い記事ですが、「やってはいけない小規模ビジネス Top 10 フィリピン版 」と題した特集を組んでいます。やった方がよいではなく、やってはいけないというのがポイントです。コロナ前に掲載した記事ですが(コロナを予想して書いたわけではありませんが)コロナ禍となってしまった今、記事で取り上げたビジネスが多く休業や倒産に追い込まれていますので参考にしてください。
休みの日の過ごし方・今後の夢や計画は?
旅行が好きなので年に数回海外へ行ったり毎年4~5月にはバリ、シンガポール、タイやベトナムなど、年末年始は日本で過ごしています。
最近休みの日は、アマゾンプライムやネットフリックスでアニメをチェックしています。製作会社情報だったり、ジャンルの傾向だったり、翻訳された字幕だったり、仕事とプライベートを分けなきゃいけないなぁと思いながらも仕事に関連付けて考えてしまうようなことは結構あります。純粋にアニメは楽しいですし、他にも日本の映画を観ることもありますね。
漫画やアニメ製作の過程を学びながら、いずれは漫画のデジタル出版社やアニメ製作スタジオを作りたいと考えています。
昔から旅行が好きで毎年色々な場所に行っていますが、南米は行く機会が無かったのでいつか少し時間を取って回ってみたいと思っているのと、ご縁があって2019年にアルメニアというコーカサス地方の国にヨーロッパ言語の拠点となる子会社を立ち上げたので、フィリピンをベース、アルメニア、日本、その他の国を回りながら暮らせたらと思ってます。
余談になりますが、アルメニアには日系企業がうちとJTIさん(日本たばこインターナショナル)のみの2社しかなく、ポテンシャルが高く、ブルーオーシャン。さらにワインやコニャックが最高で歴史的にも魅力が沢山ある所ですので、興味がある方は一度訪れてみてください。
毎年数回アルメニアビジネスツアーも開催してますのでご連絡頂ければ、詳細をお伝えさせて頂きます。
日本の地方都市と海外を繋げ、地域が活性化される活動へ
また、これは私自身のテーマなのですが、生まれ育った国である日本、特に地方都市と海外を繋げて、地域が活性化される活動に積極的に関わっていきたいです。わかりやすくいえば、海外×(日本の)ローカルですね。
日本に一時帰国する度に「日本には世界に誇れる民俗文化が多くあり、国内では当たり前すぎるのか、注目されていないモノ・コトが多く存在する」と感じています。例えば、日本酒で有名な獺祭(だっさい)は国内では全く売れず、アメリカで有名になって逆輸入されてから一気に国内で販売が伸びたことが有名であるように、日本のモノ・コトが海外で注目されるような動き、あるいは海外の人が日本のモノ・コトに興味を抱き、日本に訪れて経験するような動きに携わっていくつもりです。
日本の方にもっと世界に出て欲しい。言語が苦手だから「海外にでない」という選択肢がなくなれば良いと思う。
そういう未来になればいいと思っています。
長谷川 大輔さんのプロフィール
・アニメ、漫画、ゲーム翻訳やカスタマーサポートを行う「Creative Connections & Commons Inc.」(ダバオ)を経営
・CCCのヨーロッパ拠点となる「CCC Internatioal CCC International LLC」(アルメニア)を経営
・IT開発や人材、ダバオの情報ポータルダバオッチを運営するPistacia, Incを経営
・ミンダナオ日本人商工会議所、ダバオ市商工会議所、日本翻訳連盟会員
・東京都出身
・元NGO(国際協力団体)職員
・ダバオ市在住
・好きな言葉:人間が想像できることは、人間が必ず実現できる、Think outside the box
前回インタビューさせて頂いたハウスオブジョイの澤村さんより、ご紹介するのは「ダバオの情報サイトも運営されている方です」とお聞きし、情報サイトの運営という共通点もあり大変楽しみに当日はインタビューさせていただきました。メインはITの会社を経営されているのですが、今後の仕事のあり方やどう変化していくのかなど非常に興味深く、記事には書ききれなかったこともお話しいただき大変勉強させていただきました。長谷川さんの好きな言葉にあるように、「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」というフレーズ通りさらに先を見据えた事業展開も考えておられ、益々興味深く機会があればまたお話しできたらいいなと思いました。同じフィリピンでもダバオについてほとんど知ることがなかったのですが、これを機にダバオという都市にも興味を持ち一度訪れてみたいと思いました。ダバオのあるミンダナオ島にはセブとはまた違った魅力・素敵な観光スポットもありますので、セブトリップをご覧の皆様も是非「ダバオッチ」で情報収集してみてくださいね!「ダバオの情報はダバオッチ(Davawatch)」こちらのリンクをクリック